日時:2008年 1月17日(木) 18:30 から
場所:電気通信大学 西9号館 3F AVホール(アクセス、キャンパス内マップ(図中の40番の建物))
話者1:
橋本悠希(電気通信大学大学院人間コミュニケーション学専攻)
話題1:
吸飲感覚提示装置
概要1:
人間の体の中でも口部は非常に高い触覚知覚能力を備えており、口部への感覚提
示は可能性に富む研究分野であるといえる.我々は口部への感覚提示手段とし
て、口を用いて行う動作である「吸い込む」行為に着目し、吸飲感覚提示装置を
開発した.本発表では、吸飲感覚の原理から装置構成、実験及び展示での体験者
の反応ついて述べ、吸飲感覚の研究によって感じた口部感覚提示の可能性につい
て考察する.
話者2:
梶本裕之(電気通信大学大学院人間コミュニケーション学専攻)
話題2:
触覚ディスプレイの新展開
概要2:
触覚を人工的にを提示する触覚ディスプレイは長い歴史を持つが,その多くが視
覚障害者への感覚代行などの福祉用途や災害救助などのクリティカルミッション
を目的としたものであった.これに対して近年,触覚提示を視覚や聴覚と同様に
コンテンツ作成のための一手段として,特にエンタテインメント用途に用いる提
案が盛んである.本発表では特に我々の研究室が関わったものを中心として,こ
れまでとこれからの触覚提示のありかたを概観する.
出席者:11名
多田好克、角田博保、寺田実、小宮常康、高須賀清隆、竹山慎太郎、豊田義純、 草野孔希(電気通信大)、石畑清(明治大)、伊知地宏(ラムダ数教研)、丸山一貴(東京大)
<橋本> Q:デモムービーの二股ストローは何か? A:圧力センサに接続されているチューブがストローに取り付けてあるためそう 見えている. Q:圧力計測のストローの内径は全て同じか? A:一番知りたいのは圧力変化の傾向であるため,記録する食品によって柔軟に 内径を変化させている.ただ,できるだけ同じ径を使用するように心掛けてはいる. Q:水やジュースは、圧力変化パターンのグループのどれに属すか? A:変化の傾向から,シェイク,ムースらと同じグループに属する. Q:食品識別の実験で、どれくらい吸っているかのフィードバックはあるのか? A:現在は無い.感じる吸飲感覚の差がなるべく出ないよう,記録時・装置によ る再現時の両方で急峻に吸ってもらうよう指示している. Q:実験のときは毎回ストローを交換する? A:交換する.将来,マイ箸の様にマイストローを持つような状況を作れたらと 考えている. Q:普段吸わないものを吸うのがポイント? A:普段吸わないものも本装置で体験するとその食品を吸った感覚だと思えてし まうことが非常に面白い発見であり,ポイント.吸ったことはなくても食べたこ とのある食品ならば,脳がその経験を上手く吸飲感覚の体験にマッピングしてく れているのではないかと推測している. Q:視覚の影響はどうか? A:大いにある.ただ,吸飲感覚のみの場合でも7割以上の正答率であるため, 吸飲感覚でも十分に食品のエッセンスを提示可能だと考える. Q:感覚としての個人差が大きいと思う。ほとんど脳の研究になるような。 A:感じる感覚の個人差は大きくても,相対的にその食品の味わいだと思えれば 良いと考える. Q:食品識別の実験で、食品の識別と群の識別で差が出ていたが、個人差は大き いのか? A:食品単体の識別だと勘違いしっぱなしで正答率が非常に低くくなってしまっ た人も数人出た.特に圧力・振動のみの提示の場合では影響が大きく,群の識別 の場合の半分度の正答率だった.個人差に関しては,数人の結果を平均すると条 件により傾向にはっきりと差が生じることから,個人差はあってもある程度似 通った感じ方をしてるのではないか. Q:フィードバックが返ってくるところが面白い。 A:まったくそのとおりである. <梶本> Q:ハンガーインタフェースで、ハンガーを逆につけると頭も逆に回るのか? A:回転方向を決める要因は今のところ側頭部前方に加わる力と考えられる.こ のため,ハンガーで押される3辺のどこがこのツボを押しているかによって回転 方向は変化し,ハンガーの微妙な角度によって回転方向は変化する. Q:誰もばっさり斬られたことがないので、正しいか分からないのでは? A:正しい必要はなく,装着した人がリアルだと思いこめるレベルであればよ い.思い込むためのポイントは音と触覚が体表で高速移動することだと考えられる. Q:切腹インタフェースはどうか? A:既に考えており,近日中に実装の予定. Q:視覚障害者に輪郭を触覚で提示するとあったが、視覚障害者にとっては輪郭は 有効ではないのではないか? よりシンポリックに提示するのはどうか? A:輪郭でも認識は得切るようであるが,中も塗りつぶした方が良いという指摘 はある.一方でその場合形が不明瞭となり,刺激点数が増えてしまうという問題 がある.シンボリックな提示は発展させると音声ガイドに近くなってしまうの で,どのようなバランスがよいかは今後の課題である. Q:先天的な障害と後天的な障害では異なるのでは? A:受けという意味では後天的な障害の場合の方が受けが良い.視覚的なイメー ジを記憶しているためと思われる.しかし認識率という意味では顕著な違いはない. Q:先天的な障害者には物体そのものの奥行きを提示するのが有効ではないか? A:先天的であるかどうかにかかわらず奥行きの提示は必須であると考えられ る.特に触覚は同時に提示された複雑な情報を処理できないという特徴があり, 余計な刺激を減らすことが必須であるが,奥行きのセンシングと提示はこのため の最有力な手段である. Q:プチプチの気持ちよさは研究しているか? A:プチプチ自体は行っていないが「∞プチプチ」という製品のコンセプトであ る「気持ちの良い感触の追求」は見習うべきであり,同様の感触の追求として ジッパーおよび鉛筆削りの感触に関する研究を行っている. Q:生き物に触ったときの心地よさの研究は? 温度の制御はどうか? A:現在行っている.特に鼓動に相当する周波数を手のひら全体に提示するデバ イスを試作しており,驚くほどの生き物感が出ている.温度も重要なファクター であるが今の所は装置自体の発熱が良い効果を生んでいるようである. Q:触覚マウスの方が毛皮をうまく表現できることもある。 A:触覚の再現に際して,「手のひら全体で触る」という体験を再現しようと思 うと手のひら全体用の触覚提示装置が必要であるが,現在のところそのような装 置は空間,時間分解能に乏しくリアルな感触が出せない.これに対して何かモノ を介して触った体験を再現するというアプローチをとると,必要なアクチュエー タの個数は一つとなり高品位な触覚を再現できる.この戦略は現在の触覚,力覚 ディスプレイで多くとられている戦略である.