日吉改札口を出て渋谷方向(デパート入口)に向って右,慶応大学日吉キャン パス並木道側(綱島街道側)にでる.横断歩道を渡り日吉キャンパスに入らず (日吉キャンパス入り口に,大学の地図があります),左手,渋谷方向へ綱島 街道に沿って5分ほど進む.仲の谷という交差点(中華料理屋のところ)で右 折細い道へ入り,直進.2-3分で理工学部の表札が見えるので,そこの坂を登 る.
坂の途中,左手の階段を上り,新しい建物(やっと工事が終わりました)を くぐって,道をわたって掲示板の並ぶピロティへ入る. ピロティ脇の入り口から25棟に入り,エレベータで6階についたら階段脇, 右手すぐの部屋が25-601(管理工学科事務室の向い).
話者らは数年前よりグローバルコンピューティングシステムの構築等の研究を 行なってきた.今回はそれらの研究成果に関する報告を行なう.また,現在の グローバルコンピューティング研究の動向を,世界的な動きおよびそれに対す る日本のアプローチという視点から述べる. PCクラスタはコストパフォーマンスの高い並列処理システムとして注目され, 現在商用機も出てきている.しかしながら,メッセージパッシングではなく, 共有メモリを用いたプロセス間通信へのプログラマからの要望は強く,クラス タ上に分散共有メモリを実現する研究がなお盛んに行われている. 今年4月に発足した中條研究室では,PCクラスタ上のDSMの開発・研究を中心に また,オンチップマルチプロセッサ上でのマルチスレッドアーキテクチャの設 計や,さらにまだ構想段階であるが,量子コンピュータのアーキテクチャから のアプローチについて研究を進めており,ここではこれらの概要について説明 する.
1. ファイアウォールに対応したGlobus Toolkitの構築
Globus Toolkitは米国の巨大なプロジェクトによって設計,実装されたグロー
バルコンピューティングシステムを構築するためのツール群であり,通信,セ
キュリティ,資源管理,情報サービスなど様々な機能を実装するために利用す
ることのできるAPIやコマンドを提供している.最初のバージョンがリリース
されたのは2年ほど前であるが,近年急速に普及し,現在はグローバルコンピュー
ティングシステムを構築する際のツール群として事実上の標準になりつつある.
しかし,Globus Toolkitが提供しているTCPの通信機能は通信の際に任意のポー
トを割り当てるため,ファイアウォールを構築しているサイトでは利用できな
いという問題があった.そこで話者らはファイアウォールを越えて計算資源を
利用するためのリソースマネージャであるRMF(Resource Manager beyond
Firewall)を作成し,GlobusのGRAM(Globus Resource Allocation Manager)と
して組み込んだ.また,ファイアウォールを越えた計算資源同士の通信を可能
とするため,TCP通信をrelayするNexus Proxyの設計,実装を行ない,Globus
に組み込んだ.今回作成したファイアウォールに対応したGlobusを用いて電総
研とRWCPの間で広域クラスタシステムを構築し,その基本性能および並列ナッ
プサック問題の解法を実行した際の性能を測定した.電総研とRWCPの間の通信
では,Nexus Proxyを介した通信と直接通信した場合とでは,通信遅延は6倍程
度遅くなってしまうものの,4KBメッセージの転送バンド幅はほぼ同じという
結果が得られた.また,ナップサック問題はマスター/スレーブ形式のセルフ
スケジューリングアルゴリズムを用いて実装することにより,Nexus Proxyの
オーバーヘッドも顕在化することなく,広域環境でも十分実用的な性能が得ら
れることがわかった.
2. Ninfの紹介
Ninfは94年から電総研で設計,開発されているクライアント/サーバモデルに
基づくシステムである.今回はNinfの概要を述べた,Ninfに関しては2,3年前
にPTTで発表があったということだったので,時間の関係もあり簡単な紹介の
みとした.
3. 世界の動向,日本の動向
ここ数年で急速にグローバルコンピューティングに関する研究が盛んになって
きた.Grid Forumは第1回目の会合が昨年(1999年)の6月に開かれた米国主導に
よるグローバルコンピューティングに関するフォーラムであり,以後昨年11月
に第2回,今年の3月に第3回,7月に第4回のフォーラムがいずれも米国で開催
された.今年の10月には米国ボストンで第5回のフォーラム(GF5)が開かれた.
GF5の出席者は11ヶ国,110組織,190名に達した.現在Grid Forumに登録され
ているメンバーは24ヶ国,150組織,500名と,かなり規模の大きなフォーラム
となっている.第1回目の会合で9つのワーキンググループが決定され,以後各
ワーキンググループごとに憲章や白書の作成等の作業が行なわれてきていた.
今までの活動により,各ワーキンググループから全部で25本のworking draft
が作成されている.また,米国主導のGrid Forumに対し,ヨーロッパ主導の
European Grid Forum(EGrid)も昨年のSC99における内輪のミーティングに続き,
今年4月にその第1回の会合が開かれた.
しかし,真にグローバルコンピューティングのフォーラムとなるべく,Grid ForumとEGrid,そしてアジア太平洋地域のグローバルコンピューティングイン フラストラクチャの整備を目指すApGridとが協力しあって(あわさって)一つの 大きなフォーラムGlobal Grid Forum(GGF)を構成することが検討されてきた. GF5ではGGFの組織に関するミーティングも行なわれ,GGFの方針がほぼ固めら れた.日本からは早稲田大学の村岡先生がAdvisory Committeeに,電総研の関 口氏と東工大の松岡先生がSteering Committeeに加わられている.現在ApGrid に提供する計算機の設定等を行なっているところであり,これらの計算機上で Ninfなどの様々なグローバルコンピューティングシステムのサービスを提供す る予定である. また,現在電総研では高エネ研と共同で大量のデータをグローバルコンピュー ティング環境上で処理するプロジェクトを立ち上げ,研究を行なっているとこ ろである.グローバルコンピューティング環境上で動作する実アプリケーショ ンとして,システムサイド(電総研)とアプリケーションサイド(高エネ研)の双 方でハッピーになれればと思う.
4. まとめ
グローバルコンピューティングに関する研究は米国を中心に急速に発展してき
ている.アジア太平洋地域のリーダーとして日本が負う責務は大きいと思われ
る.世界的なインフラや研究協力体制の整備が急務である.国内ではまだまだ
この分野の研究者が少ないが,様々な機関にもっと興味を持って頂いて協力し
ていただければと思う.
Q: ファイアウォール対応はsshを使ったのでは駄目なのか?
A: 現在のGlobusの構造だとsshで対応するのは難しい.
Q: ナップサックの性能で,Nexus Proxyを介したものと介さないものとの差が
少なすぎないか?
A: たしかにこの部分は詳細な解析を行なう必要がある.実際にはロードバラ
ンスがうまくいっていなくて,一番遅いプロセッサの時間しか見えていない可
能性も考えられる.
Q: Nexus Proxyが多段に利用される場合,セキュリティ上問題はないか?
A: Nexus Proxy自体のセキュリティはきちんと確認する必要があるが,多段に
利用するために問題が生じるということはない.
Q: 日本以外のアジアの国はApGridに参加する意義があるのか?自国でスパコ
ン等を持っているのか?
A: 直接認識しているだけでも,少なくとも韓国,台湾はスパコンを持ってい
るし,今後このような計算機環境を構築する場合には国を挙げて臨む必要があ
るのは日本だけではない.
Q: 高エネ研的には何が嬉しいのか?
A: より速くデータの解析を行ないたいので,グローバルコンピューティング
の仕組みを利用して大規模計算機環境を構築し,高速にイベントデータの解析
が行なえれば良い.
Q: 日本がグローバルコンピューティングで世界と協力する必要があるのか?
A: 今後より一層のネットワーク技術の発展や日本が保持しているスーパーコ
ンピュータの数,性能等を考えれば日本も世界に対して貢献する必要は非常に
強いと思われる.米国やヨーロッパサイドでも,日本に対する要求,興味は強
い.