第 181 回 PTT のお知らせ


日時: 1992年 12月 17日 (木) 18:30 から
場所: 富士ゼロックス株式会社 KSPソフトウェア事業所 4F プレゼンテーションルーム JR南武線武蔵溝の口駅,東急田園都市線溝の口駅下車.田園都市線利用者は南 武線乗り換え口を出て,まっすぐ南武線に沿って進む.南武線利用者は,改札 を出てすぐ右に曲がり南武線に沿って進む.どちらも約1000 m進むと左手に NEC東京第二工場があるので,その右端の塀に沿い約50m進むと,かながわサイ エンスパーク(KSP)(淡い紫色のビル)の前に着く.X字した棟の手前側のエレベー タに乗り,4 階で降りる.
話者: 伊知地 宏 (富士ゼロックス株式会社)
題目: 整数論への計算機の応用
概要: ある種のディオファントス方程式の全ての整数解を求めるアルゴリズム(証明) を計算機を利用して作成し,具体的に解を求める方法を紹介する.今回対象と する方程式は,y^2 + k = x^3 (k /= 0) という形をしたもので,その全ての 整数解を求めるBakerやStarkの結果よりは実用的である.
食事: 今回もありません.

          葉書の残りは      枚です

差出人(幹事):
113  文京区本郷 7-3-1
     東京大学工学部計数工学科  岩崎英哉
     03-3812-2111  ext. 7411

第 181 回 PTTメモ


日時: 1992年 12月 17日 (木)
場所: 富士ゼロックス株式会社 KSPソフトウェア事業所 4F プレゼンテーションルーム
題目: 整数論への計算機の応用
話者: 伊知地 宏 (富士ゼロックス株式会社)
出席者: 岩崎 英哉, 尾上 能之, 木下 毅, 田中 哲朗, 立山 義祐, 寺田 実 (東大), 佐々木 崇郎, 馬上 博樹 (慶大), 多田 好克, 小池 英樹, 稲田 太 (電通大), 島田 秋雄 (日本サン・マイクロシステムズ), 倉部 淳 (富士ゼロックス)
質疑応答:
不定方程式y^2+k=x^3 (kは0でない有理整数)の全ての有理整数解を求めるアル
ゴリズムについて, 具体的に例を示しながら説明しました. この問題は,
Hilbertの第10問題「任意個数の未知数を含む整数係数不定方程式が, 整数解
を持つか否かを有限の演算で判定する一般的方法を見つけること」に関連する
話題です. 

Hilbertの第10問題は, Matijasevi\check{c}によって否定的に解決したわけで
すが, 不定方程式の形にある制限をつけると, 全ての整数解を見つけられるこ
とが知られています. その中で特に顕著な結果としては, Bakerの一連の仕事
が知られています. 今回, 題材とした不定方程式に対するBakerの結果は, 以
下のとおりです.

定理[Baker68]  k \neg 0 なる任意の整数に対して
	y^2+k=x^3
の全ての整数解(x,y)は,
	max { |x|, |y| } < exp{(10^10 |k|)^{10^4}}
を満たす. 

しかし, 上記の領域をしらみつぶしに調べて解を探すことは, 実際には不可能
でしょう.  そこでBakerの証明をベースに工夫します.

	y^2+63=x^3  	(1)
について考えてみると次のようになります. 2次体Q(\sqrt{-7})で
y^2+63を分解し, y^2+63が平方数であることより,
	y+3\sqrt{-7}=aX^3	y+3\sqrt{-7}=bY^3
ここでa, bはQ(\sqrt{-7})での立方数を含まず, abはQ(\sqrt{-7})で立方数で
す. aとbについてこの2次体上で素因子分解をして若干の式変形を行なうと,
(1)を解くことは
	X^3-12XY^2-2Y^3=\pm 1	(2)
を解くことと同値になります. この式変形では、数式処理システムを使うと便
利です.

(2)を解くために
	f(X,Y)=X^3-12XY^2-2Y^3
とし、f(X,1)=0の一つの解θを考え, 実3次体Q(θ)上で(2)の方程式の考察を
行なうと, 対数の線形形式の線型形式を得ることができます. 細かい話をする
と非常に長くなるので, 詳細は省略します. 式変形と数値計算の結果, (2)を
解くことは, H =< 3のとき
	|\pm α^{b_1}_1 α^{b_2}_2 + α_3 | =< exp(α-δH/4),
4 =< H =< 77のとき
	|b_1 log|α_1| + b_2 log|α_2| - log|α_3|| < 4 exp(-δH/4)
のb_1, b_2を求めることに帰着できます. これを解いて今まで来た道筋をたど
ると, (1)の整数解が(x,y) = (4,1), (4,-1), (563, 13537), (563, -13537)
のみであることが求まります.

ここで省略した部分が実は本質的部分なのですが, PTTで話したときもここだ
けで1時間くらいかかったので割愛させていただきます. この部分でも不等式
の評価のために数値計算をかなり行ないます. いくつかの計算では, 小数点以
下1100桁程度の精度が必要になります. 不等式の評価をいかにうまくやるかが,
計算量を落すための鍵になります.

この証明は構成的になっていますので, 形式的に証明を記述して不定方程式を
解くプログラムを実際に抽出できないかと最近考えています.

当日, 長々とした証明にお付き合いいただいた皆様, ありがとうございました.

参考文献
[Baker68] A. Baker, Contributions to the thory of Diophantine
equations: II. The Diophantine equation y^2=x^3+k, Phil. Trans. Roy.
Soc. London, A263 (1968), 193-208.



		伊知地 宏 	hiro@ksp.fujixerox.co.jp
		Systems & Communications Lab., Fuji Xerox Co., Ltd.